どのような経緯で安田産業㈱に入社することになったのでしょうか?
弊社は昭和24年に私の祖父が、金属リサイクルの会社として「安田弘商店」を創業したのが始まりです。現相談役の父へと引き継がれる中で大手解体工事業者の金属スクラップを一手に引き受けるようになりました。その後、総合解体工事、産業廃棄物処理へと徐々に事業規模を大きくしてきました。
私は明治大学を卒業後、都市銀行に入行して、窓口業務や住宅ローン、中小企業の法人営業などを経験してきましたが、いずれ社業のため岡山に帰るという思いがあり、28歳になる直前に岡山に戻ったんです。
解体工事に係る重機は約140台を保有。あらゆる現場条件に合わせ、安全かつ効率的な施工を実現する
岡山に戻られていかがでしたか?
平成18年の入社から2年後にリーマンショックが起こりました。その直前にはスクラップが史上最高値を付けていましたが、途端に製鋼メーカーからは「明日から買いません」と言われ、何億円分ものスクラップが全く売れない事態になりました。社員の給料やお客様への支払いは止められない中で、さあどうする、となったわけです。この時は銀行勤めの経験が本当に活きました。こういう状況で銀行が何を求めるか、ということに考えを巡らし、リサイクル材の長期的な需要見込みや、当社の解体工事の受注状況などを丁寧に説明し、融資にご協力いただくことができました。その後は解体工事の受注状況やスクラップの価格が回復してきたことから、難局を乗り切ることができたんです。
他社との差別化で積極的に取り組んでいることはありますか?
他社とあえて差別化しようと取り組んできたわけではなく、いかにお客様に向き合い、信頼関係が構築できるかが勝負と思ってやってきました。それはお客様に対してはもちろん、地域の住民の方々についても言えることです。
解体工事の現場では、普段はしないような音や重機の振動が発生することもあり、近隣の方々にとってみれば迷惑産業であることも否めません。私どもは、無駄に大きな声で話していないか、無駄に機械音などの騒音を出していないか、あるいは近隣の皆様の安全に配慮ができているかといったことを検討して、できるだけご迷惑をおかけしないように作業することを徹底してきました。
私が入社直後から手掛けている廃棄物の最終処分場も、地域の理解がなければ新設はできません。住民の方々との対話をすすめ、10年がかりで稼働に至ることができました。運営を始めて8年程度になりますが、排出元の状況と持ち込み物のダブルチェックを絶え間なく行うことで、当初、住民の方が心配されていたような、いわゆる不法投棄のようなことや許可外品目が入るようなことはなく、少しは安心していただいているのではないでしょうか。解体からリサイクル、廃棄物の適正処理と、一気通貫で事業展開できることは弊社の強みに繋がっています。
解体工事のお客様は建設会社様だけではありません。工場を運営されている企業様であったり、店舗やビルの所有者様、個人の方々であったり様々ですが、各現場での社員の動きや、当たり前のことを間違いなくやりきるという愚直な姿勢に、他社との違いを感じていただけているのではと考えています。
3D スキャナーを活用することで、誰でも効率よく高精度な図面を作成可能に
次の世代の体制づくりにどのように取り組んでいるのでしょうか?
我々の業界は職人社会で、どうしても口頭伝承が多くなります。ベテランと若手作業員を一緒に現場に行かせて、教えてやらせてみる。作業が安全に進められることを確認できたら若手作業員に任せるようにして技術を伝承し、技能の向上を図っています。ある程度はマニュアルとか手順書という形にはしていますが、まだまだ現場のOJTによるところが大きいですね。
とはいえDXなど時代の変化に対して手をこまねいているわけではありません。古い建物の解体では図面がないケースも多くあり、以前は現場で計測し写真を撮って図面に起こしていたのですが、一昨年の12月から3Dスキャナーを活用して現場状況や建物をパソコン上に3Dで再現できるようになりました。
建物の長さ、面積や高さが瞬時に正確にわかり図面化することもできるので、工事の申請が迅速になったほか、解体手順をどうするか、どのような重機を使うことが適当か、などの計画ができます。
実は弊社でこのシステムをオペレートしているのは建設業の経験が全く無かった女性です。建築の専門知識は無くとも今では相応に使いこなしてくれています。簡単に使えて結果が出るというところがポイントですね。
この他にも、リモコンで操作できるコンパクトな電動の重機を導入して、新たな解体工法への活用ができないか等、試行錯誤しているところです。
先々を見据えて色々な取り組みも行っているつもりですが、我々が生業としている解体工事業はひとつとして同じ現場はないため、経験による知見に基づいた改善でなければ、意味をなさないことが多くあります。ドラスティックな一足飛びの変革は現場を混乱させたり、危険な状況を生んでしまったりすることもあるので、愚直に一歩ずつ改善を重ねていくべきだと考えます。
どんな会社にしていきたいと考えていますか?
私は会社を無理に大きくしようとは思っていないんです。大事にしているのは「愛・運・縁・恩・勘」の5 つの言葉です。「あいうえお」と「か」に、「ん」をくっつけた造語なんですけどね。
いい出会いは自らの働き掛けがあって初めて生まれるものだと思います。出会いの「運」をつかめるように日々を過ごし、「運」をつかんだら、そこから「縁」が始まるわけです。頂戴した御恩を決して忘れるな、というのが先代からの教えですが、得た恩義を忘れずお役に立てるようにとの思いをもって行動する、ご「恩」返しですね。そしてプロフェッショナルとして「勘」を研ぎ澄まし業務にあたること。最後にご縁をいただいた皆様に「愛」されることが最も大事なことと考えています。
お客様の期待に応え、お客様と一緒になって仕事をさせていただきながら、社員が生き生きと仕事ができる環境作りをしていくことが私の一番の使命であり、最優先課題です。昔気質の人間ですので、愚直に、そして真摯に取り組んでいきたいと考えています。
安田 猛(やすだ・たける)
昭和53年生まれ。明治大学商学部卒業。都市銀行を経て、平成18年安田産業㈱入社、令和元年7月代表取締役社長就任。経営者としての信条は、「愛・運・縁・恩・勘」
本 社 岡山市南区三浜町1-1-18
事業内容 製鋼原料加工処理業、総合解体工事、産業廃棄物処理
設 立 平成2年4月
資本金 3,000万円