トップの羅針盤 第14回 中国精油㈱ 代表取締役社長 樋口 克彦 氏

トップの羅針盤2025年9月号

現在、どのような事業を中心に展開されているのでしょうか?

 当社の主な事業は、化学品の受託精製と、潤滑油をはじめとした石油化学製品の製造販売です。昭和16年の創業以来、自動車用潤滑油の製造、ガソリンスタンドの運営を軸に行っていましたが、変化する産業構造と市場ニーズに対応すべく、現在はいままで培ってきた技術とノウハウを活かし、化学品メーカーからの電子材料や医薬品原料の受託精製事業など専門性の高い分野での「ものづくり」に挑戦しています。
 私は分析や品質管理といった技術分野に魅力を感じて昭和56年に入社したのですが、入社して1年間だけ水島工場で製造現場を経験した後、営業職として東京支店に転勤を命じられました。その時には戸惑いましたね。人と話すよりも一人で黙々と何かに打ち込むほうが性に合っているな、と正直思っていましたので。
 ただ、実際に営業を経験してみると、毎日いろんな人とお会いして様々なお話ができるという新鮮さもあって、営業も面白いなという思いになりました。大阪支店での営業勤務を経て、水島工場に蒸留設備が新設されたタイミングで5年間ほど製造現場に戻った時期もありましたが、その後はまた東京で営業活動に従事し、あわせて20数年、営業畑を歩みました。技術職と営業職の両方を経験したからこそ、製品の本質を伝える力が養われたと思います。

平成21年からは管理本部に移られましたが、こちらの仕事はいかがでしたか?

 管理業務なんてそれまで全く縁がなかったので、この時も最初は不安のほうが強かったですが、会社がどういった動きをしているのか、資金的な問題がどうなっているのか等、経営に対する問題意識が高まっていた時期でしたので、これはチャンスだ、と思いました。
 平成22年には取締役に選任され、さらに経営への責任感を一層強くした矢先、翌年に水島工場で事故が発生し、社員が怪我を負うという、企業として最も重い出来事に直面しました。
 この事故をきっかけに、それまでは製造現場の社員が兼務していた安全管理業務を新たに専従部門として独立させました。人件費や工場の運営コストはかさむことになりましたが、安全安心に徹するため、そして何より社員を守るためにはどうしても必要な決断でした。
 その甲斐あって、それ以降事故は起こしていませんし、今後も絶対に事故を起こさない、安全第一を最優先にした運営を行っています。

水島工場に今年1月に新しいプラントが完成しましたね。

 医療用具メーカーの製造工程で使用された使用済み溶剤から不純物を取り除き、再利用できるところまで純度を上げることができる水平リサイクルプラントで、医療用具用としては国内初の取り組みだと思います。溶剤を再利用することにより、お客様には大きなコストメリットをご提供できるようになりましたし、環境負荷の低減と資源の有効活用を両立できることになります。この技術を活用して医療分野などでの取引先の拡大を目指しています。お客様のニーズに合わせた特徴ある設備をこれからも順次整え、新たな事業展開につなげていくつもりです。

今年1月に完成した水平リサイクルプラント。医療分野での廃溶剤の再利用を可能とした。同社の事業基盤の強化と循環型社会の構築に寄与する

順調のようですが、新たに取り組まれていることはありますか?

 創業時から製造販売している潤滑油は、近年はコストメリットを出すためにOEMによる製造委託をするなど柔軟な対応で販売数量を伸ばしてきました。とは言え、今後のEV(電気自動車)化に伴う潤滑油の需要減少を見据え、これに代わる新しい事業を構築することが喫緊の課題だと考えて取り組んでいます。
 その一つがバイオマスを活用した製品開発です。バイオ由来の原料から化粧品の原材料を精製する研究や、特定成分を抽出して機能性健康食品として活用する研究を進めています。当初は住宅建材向けの断熱蓄熱材としての活用を考えていましたが、より採算性、市場性の高い製品開発へ方向転換しました。
 また、将来会社を支えることになる若手社員に〝自分たちのために始める事業〟という意識を持ってもらおうと、「2050年の中国精油」と題して様々な新規事業案を提案してもらいました。その中から今3つの事業に絞って、部署を超えてプロジェクトチームをつくり、事業開発に取り組んでいます。
 まだスタートしたばかりで具体的なお話しはできませんが、3つともこれまでのBtoBだけでなく、BtoCの新たな市場へ挑戦するものです。私は2050年には現役ではいないでしょうが、その頃には当社の事業の柱になっているものと楽しみにしています。

“2050年の中国精油”と題し、若手社員中心で事業を立案した。ボトムアップの提案を基に、次の時代の事業の柱とすべくプロジェクトを推進している

若い社員の意見を吸い上げるということが社風としてあるのですね

 当社では以前から、ボトムアップでいろいろ提案するということが習慣というか、仕組みとしてあります。中堅や管理職はもちろん、若手社員であっても、上司の了解を得たうえで、意見や提案を管理本部もしくは直接経営陣にメールで送ることができるんです。
 提案されたことに対しては必ず目を通し、上層部で検討します。そして、採用できるかどうかを、理由も含めて本人にフィードバックするようにしています。
 北九州市の新門司工場では、石油化学メーカー向けのアルコールの製造設備を新規に稼働させていたところ、新型コロナウィルスの感染が拡大、急遽この設備を一部改造して除菌液を作って地元の保健所や小中学校、高校などにお配りしましたが、これも現地の営業担当者からの提案です。現場の声には、私たちが気付かない視点があるからこそ、こうした意見を大事にしていきたいと思っています。

今後の展望をお聞かせください。

 今やっている事業だけを続けていては、いずれ淘汰されてしまうという信念で、常に次の事業になり得るものを探しています。そのためには、社員全員がいろんなことに興味を持ち、何が当社にとって有益なことか、ということを常に考えていてほしいと思っています。
 社員を大切にし、意見を言いやすい環境を守り、その意見に耳を傾けられる社長でありたいし、良い提案は積極的に採用していく姿勢を大切にしたいと思っています。若い人たちの挑戦を後押ししてあげられる会社でありたいですね。

樋口 克彦(ひぐち・よしひこ)
昭和34年生まれ。岡山大学工学部合成化学科卒業。
昭和56年中国精油㈱入社。平成19年東京支店長就任。平成22年取締役就任。平成24年常務取締役昇格。平成26年取締役副社長昇格。平成28年12月、代表取締役社長に就任

本 社  岡山市北区中山下2-1-77
事業内容 化学品の受託精製、石油製品製造販売
創 業  昭和16年(1941年)
資本金  8,300万円

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