トップの羅針盤 第15回 ナカシマプロペラ㈱ 代表取締役社長 中島 崇喜 氏

トップの羅針盤2025年10月号

令和3年に社長に就任されて以降、御社の状況はいかがですか。

 就任当時はコロナ禍の真っただ中で、造船の市況もよくなかったのですが、現在は中国や韓国でコンテナ船の建造が活発になっている影響もあって、マーケットは急激に回復していると感じています。
 弊社のプロペラは、外航船の国内シェアはほぼ100%、世界でも約30%のシェアをいただいています。大形プロペラを製造する玉島工場が平成17年に完成したこともトップシェアを維持する大きな要因になっていると思います。
 また、2年前には新社屋「NX(エヌクロス)ビル」が竣工しました。新しい働き方に挑戦したいと考え、オフィスにフリーアドレス制を導入しています。毎日違う場所に座ることで、違う部署、違う世代の人とのコミュニケーションの活性化に繋がっていると思います。私はさすがに固定席なんですが、社長室をなくしてみんなと同じ室内で仕事をしています。
 NXビルにはグループ会社5社が入っていて、階層別研修を共同で始めていますし、情報交換や協業、共創の場としてグループの交流を促進することでシナジー効果も期待しているところです。

会社を継ぐことについて、どのように意識されていましたか。

 実は父からは会社に入るように言われたことはありませんでした。大学卒業後は別の会社で仕事をしていましたし、あまり意識はしていませんでした。
 転機となったのは、平成18年の創立80周年式典に参加した時でしょうか。国内外の造船所、船主さんや取引先など非常に多くのお客様にお越しいただいて、ナカシマプロペラの事業がこれだけ多くのお客様に認められていることを実感しました。翌年のベトナム工場の開所式にも大変刺激を受けたこともあり、最終的に入社を決意しました。
 いずれ会社を継ぐことになることは覚悟してのことでしたので、お客様に対する責任を果たせるだろうかといった不安はもちろんありましたが、それ以上に今後の海外拠点の展開を含めた会社の中長期的な経営戦略を考えていく楽しみのほうが頭の中を占めていましたね。

なぜそのように前向きに考えられたのでしょうか?

 弊社の社風として、前向きに新しいことに挑戦していくチャレンジ精神を大切にしているからだと思います。これまでの過程では様々な失敗もしていますが、それを単なる失敗とは捉えておらず、「誰に責任があるのか」といった議論もしたことはありません。むしろ、そこから何か学んでさらに前進していくという意識の方が強いと思います。
 例えば、平成19年にベトナムに初進出したのですが、思うように工場の稼働が伸びず、工場のあり方そのものを再検討する状況に陥りました。しかし、その原因が工場規模の中途半端さであったことだと判断し、より大規模な工場建設に打って出て需要を獲得することに成功しました。経験を学びとして生かして更に次に挑戦していく、この繰り返しだったと思います。
 プロペラ製造で培った金属の曲面加工や磨きの技術を生かして医療分野に進出したように、全く違う業界に参入するということにも取り組んできました。このチャレンジ精神は長年かけて築き上げてきたものですから、これからも大切にしていきたいと思っています。

社員の皆さんにも挑戦を促しているそうですね。

 社員が誰でも新規事業を考えて応募ができ、全社員の投票でプロジェクトの採否が決定する「社内クラウドファンディング制度」を始めています。社員1人あたり10万円分の投票権があり、その資金を会社が支援し、選定されたプロジェクトの担当者は勤務時間の一部をその活動に充てることができます。
 会社の既存の事業とは全く関係ない内容でも応募可能で、新しいビジネスにチャレンジしてみたいという社員の自由な発想や思いを後押ししたいと考えてのことです。
 例えば、プロのトレーナーの指導が付いたパーソナルジムの運営や、省スペースで設置できるボルダリング壁の製作・販売などのプロジェクトが事業化に向けて始動しています。
 実際に経験してみて、たとえ成功しなくてもそれが貴重な学びになりますし、将来の経営人材・管理職の育成にも繋がると思っています。

社内クラウドファンディング制度からボルダリング壁の製作・販売などの新プロジェクトが生まれた

温暖化対策にも取り組んでいると聞いています。

 令和3年の世界全体のCO₂排出量のうち、海運業の占める割合は1.9%で、これはドイツ一国の排出量とほぼ同じです。
 船舶の燃料効率の向上は、CO₂削減に直結します。世界の船の約3割に当社のプロペラが搭載されていますので、われわれの努力で性能を10%改善できれば、極めて大きな削減効果を生み出せると考えています。
 弊社では来年の創立100周年に向けて「推進性能の最適化」という目標を掲げて、プロペラのみならず、舵やダクトなど船尾周りの様々な省エネ付加物を一体で設計・開発することで、船全体の性能向上を図っています。
 こうした統合的な製品提供ができるのは、おそらく世界でも弊社だけだと思います。今後もカーボンニュートラルに向けてCO₂排出量削減に貢献していきたいと思っています。

プロペラ、舵、ダクトなど船尾周りの省エネ付加物を組み合わせた統合設計で、さらなる推進性能の向上を実現する

今後についてはどのようなビジョンをお持ちでしょうか。

 100周年を迎えるにあたり、次の10年に向けたビジョンとして、「BEYOND PROPULSION(ビヨンドプロパルジョン)」を掲げています。
 これは、実際の海域での検証実験を通して、様々なデータを取得・解析し、船の推進性能と操船性を向上させて運航の最適化を実現するもので、人手不足など業界が抱える課題解決にも貢献できるのではないかと考えています。
 弊社はグループ会社も含めると現在9カ国に海外拠点があり、国内外のグループ社員は2,000人を超えています。異なる文化や習慣、伝統や政治など様々なバックグラウンドを持っている人たちと話をすることで多くのことを学べますので、海外拠点やグループ会社間で出向や研修などで人材交流も進めているところです。
 私が果たすべきは、会社が目指す方向、戦略を明確にし、それに基づいて意思決定することです。社員と思いを共有して、ビジョンの実現に向けてともに進んでいきたいと思っています。

中島 崇喜(なかしま・たかよし)
昭和52年生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒業。平成21年、HEC PARIS経営大学院MBA(経営学修士)卒業。平成19年ナカシマプロペラ㈱入社。平成22年、同経営企画室室長就任。平成24年、NAKASHIMA ASIA PACIFIC PTE.LTD(シンガポール)出向、MANAGING DIRECTOR 就任。平成31年、ナカシマプロペラ㈱取締役就任。令和3年2月、同代表取締役社長に就任

本 社  岡山市東区上道北方688-1
事業内容 舶用機器の開発・製造・販売
創 業  大正15年(1926年)
資本金  1億円

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