トップの羅針盤 第24回 RSK山陽放送㈱ 代表取締役社長 物部  一宏 氏

トップの羅針盤2026年10号

放送業界を志したきっかけを教えてください。

 学生時代、ラジオやテレビの放送が、一度に大勢の人に情報を届けたり、影響を与えたりできることに魅力を感じていました。そして地元岡山、香川でそんな仕事をしたいと思い山陽放送に入社しました。もともとは報道志望でしたが、最初の配属は本社営業部でした。当時の営業は「商店街を端から端まで歩いて広告を取ってこい!」と言われるような、足で稼ぐ時代です。「仕事は教えてもらうものではなく、盗むものだ!」という教えの厳しい環境の中で、必死に仕事を覚えていきました。
 転機となったのは、入社9カ月での大阪支社への異動です。知人が誰一人いない環境でしたが、お得意先や広告代理店、他局の方々と地道に関係を築くうちに、自然と情報が集まり、新しいお話をいただけるようになりました。ここで学んだのは、キーマンとの出会い、コミュニケーション力、そして信頼関係の重要性です。人との繋がりが次の仕事に繋がっていく。私の仕事人としての原点になっています。

その後、36歳で念願の報道部へ。営業とは異なる仕事から何を学びましたか?

 配属初日から早朝取材、社に戻ってすぐ事故の取材、そして昼のニュースオンエア、怒涛の毎日でした。最初はニュースの専門用語も多く戸惑いましたが、数カ月経つと番組制作のノウハウも身につき、報道が持つ影響力の大きさと面白さを実感するようになりました。
 この経験は、後に営業部門へ戻った際、非常に大きな武器となりました。若い頃は「とにかく広告を取ってくる」という意識が強かったのですが、報道を経験したことで「何をどう伝えれば相手の心に届くのか」という本質的な問いを持つようになりました。それ以来、単に広告をお願いするのではなく、番組やイベント、あるいは企画が持つ“価値”を伝え、ご納得いただいた上でスポンサーになっていただく“提案型営業”へと意識が大きく変わりました。

放送業界は大きな転換期にあります。現在の課題をどう見ていますか?

 メディア環境の変化に加え、人口減少という構造的な課題もあり、業界を取り巻く環境は過去の経済危機以上に厳しいと捉えています。従来型のマスメディアだけでなく、デジタルメディアやSNSとの競争も激化しています。
 この局面を乗り越えるため、「業務の効率化」が急務です。業界全体での設備共同利用などに加え、当社でもDX化を推進しています。グループ会社のRSKプロビジョンを中心として、AIを活用したCG制作や番組制作なども研究を進めています。
 また、“オールドメディア”などと揶揄されることがありますが、新しいRSKのイメージを少し時間をかけて作り上げていく“リブランディング”にもチャレンジ中です。
 そしてもう一つ重要なのが、放送外収入の創出です。全国の放送局が異業種へ参入する中、新規事業の立ち上げは待ったなしです。ただ一方で、拙速な展開は命取りになります。当社においては、丸の内の旧館やRSKバラ園といった既存資産をいかに有効活用するかも重要な課題です。これらを地域のまちづくりや再開発と連動させ、当社が培ってきた「情報発信力」や「コンテンツ制作力」と掛け合わせることで、新たな収益モデルを構築していきたいと考えています。

誕生20周年を迎えた「アレすけ」「ロクタン」に加え、公募で名前が決まった「ワルすけ」「ムスビン」が登場

社長として、特に大切にしていることは何でしょうか?

 私は昭和の厳しい時代に揉まれてきましたが、自分がされて嫌だった指導を下の世代に押し付けることはしたくありません。私自身、何か突出した才能があるわけではなく、「平均点な人間」だということを自覚しています。だからこそ、自分の限界を客観視し、足りない部分は人の意見に真摯に耳を傾け、積極的に情報を取りに行くことで補ってきました。最終的に強いのは、人の話をしっかり聞く人だと信じています。
 そして、会社を強くするためには、トップダウンの指示だけでなく、現場から「これをやりたい」という熱意が上がる組織でなければなりません。その成果の一つが、JNN系列28局が参加するニュースサイト「TBSNEWS DIG」への取り組みです。当初は「テレビ放送より先にネットへ記事を出すこと」に抵抗がありました。しかし、現場から「これからはネットファーストです!」という強い進言がありました。現場が工夫を凝らし、身近な社会ネタを積極的に配信し続けた結果、当社の記事閲覧数は昨年度JNN各局の中でTBSに次ぐ年間2位という実績を打ち立ててくれました。これは私が考えるボトムアップの成功例のひとつです。

最後に、これからRSK山陽放送が目指す未来像を教えてください。

 社是に「地域とともに」と掲げている通り、地域の活性化、地域課題の解決、安心安全への貢献こそが私たちの存在意義です。
 平成24年からゴールデンタイムで放送しているドキュメンタリー番組「RSK地域スペシャル メッセージ」は、地域の「今」を伝え続け、数々の賞をいただくなど、当社の顔となる番組に成長しました。
 また、岡山で児童福祉の礎を築いた“石井十次”や“木下サーカス”をテーマにした市民ミュージカルなど、地域の歴史を掘り起こし、次代へ語り継ぐ文化事業も、地域の放送局だからこそチャレンジできることだと思っています。
 加えて、豊かな自然環境をベースにした、この地域のたくさんの魅力をもっと発信していきたいと思います。
 そして、こうした使命をいかなる時も全うできるよう、一層強固な経営基盤をつくらなければなりません。ベテランの知見を若手へ継承し、次世代のマネジメント人材を育成すること。そして何より、現場の声が自由に飛び交い、社員一人ひとりが自律的に考え、ウェルビーイングを感じながら働ける環境をつくること。楽しみながら、面白がって新しい発想でどんどん仕事をクリエイトして欲しいと考えています。
 今より少しでも成長した会社を、次の世代へバトンタッチすることが、今の私の目標です。

旧城下町の文化芸術ゾーンである天神町に2020年に開業した「能楽堂ホールtenjin9」。新しい文化創造の拠点として、人々が出会い触れ合える場を提供している

物部 一宏(ものべ・かずひろ)
昭和40年生まれ。早稲田大学商学部卒業。昭和63年山陽放送㈱入社。令和6年6月、RSKホールディングス㈱ 代表取締役社長・RSK山陽放送㈱ 代表取締役社長に就任

本 社  岡山市北区天神町9-24
事業内容 広告放送を含む一般放送事業およびそれらのソフト制作、文化・教育・芸能・スポーツ等のイベント企画・運営ならびにこれらに関する物販等、出版物の企画・発行・販売等
創 業  昭和28年
資本金  1億円

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