10月号会報「トップの羅針盤」 ダイヤ工業㈱ 代表取締役 松尾 浩紀 氏

ダイヤ工業㈱に入社される前に2年間別会社を経験していますが、当初から跡を継ぐというお考えはあったのですか。

 私は東京の大学に行って、そのままIT関係の会社に就職しました。当初から上司にも恵まれ、仕事はやればやるほど成果は出るし、社会人って楽しいんだ、人生ってワクワクするんだと思えるようにもなっていました。
 とても充実した気持ちで働いてはいましたが、ゆくゆくは岡山に戻りたいという気持ちもありましたので、先代(父)から岡山に帰ってこないかという話があった時に、跡を継ぐという選択肢もあるんだな、と思うようになりました。

全国の9社のアシストスーツを体験できる展示施設「アシストスーツミュージアム」を同社の研究施設R&D センターで11月末まで開催中

入社後、その考えはどのように変わっていったのでしょうか。

 当社は、筋肉、関節、骨など運動器のトラブルに対応するサポーターを主製品とする医療用品メーカーです。働く中で、モノづくりのやりがいとメーカーにいる喜びを感じることができたのが大きいですね。それを決定づけた出来事として、車椅子用のグローブを開発する機会がありました。
 車椅子を利用される方、と言っても、1人1人身体の動く範囲がそれぞれ違います。中には、ほとんど握力を失っている方もいらっしゃいますが、滑り止めのゴムを手の平に使用した特殊なグローブを装着することで自ら車椅子を動かすことができるようになるんです。当社の製品を喜んでくださる方の様子が印象的で、「ありがとう」と言われる製品が販売できる、そんな場面に携わっていることにすごく温かい気持ちになったことを今でも覚えています。本当はこういう仕事がしたかったんですね。

平成30年に代表に就任されました。どんなお気持ちで跡を継がれたのでしょうか。

 代表になる前に、オーストラリアの大学院でMBAを取得しました。戦略を学べば体系化された経営知識全般が得られると思ってのことですが、その時は理想の自分に少し近づいた気がして、これでもうビジネスはできる、自分なら会社をもっと伸ばせる、という自信を持っていたように思います。
 新しい発想や取り組みたいことが自分の中で溜まってもいましたので、代表になってから、新しいことをどんどんやっていきました。
 お客様目線が大事という気持ちはもちろんありますが、いかに売上を伸ばしていくかという思いも同時にありました。会社が新しいステージに向けて変革していく中、意見の違いが重なり、お互いに歩み寄ることが出来ず、会社の進む方向や大事にしている考え方に違和感を持った従業員は会社を去っていきました。また、大口の取引先のおかげで一時的に増えた売上も長続きせず、自分の戦略が足りないのだろうかと、経営者として自信を失くすようになっていきました。

作業服の下に着用できるアシストスーツを販売。身体負担を軽減できるもので重量物の運搬や高齢者介助などでの活用に注目されている ※写真はイメージです

頑張ろうという気持ちが悪循環を生んでしまったのですね。

 そんな時に、京セラ㈱の元社長で岡山出身の伊藤謙介さんにお会いする機会があり、自分で考えて始めたことがうまくいかない現状を話したときに、「先代とは経験値に圧倒的な差がある。それは判断した回数に象徴されるもので、その差が100倍以上も違うのに持論だけに拘って社業を展開しているようでは経営者失格だ」と一喝されました。衝撃的でした。しかし、その通りだと思いました。
 それまで父は経営に口出しをせず私を見守ってくれていたのですが、翌日、父に頭を下げ率直に教えを乞うと、「わかった。いい会社にしよう」と静かに話してくれました。この時ほど父の器の大きさを感じたことはなかったです。私にとって経営者としての最大の転換点でした。

そこでの学びをどのように活かしてきたのでしょうか。

 今は「自分が何とかしなきゃいけない」ではなくて、会長である父はもちろん、家族、兄弟、周りにいる幹部、それぞれの部門の責任者をはじめ従業員を頼り、信頼し、いろいろ相談して、想いを共有することが経営者として最も重要なことだと考えています。
 そのために、18項目からなる〝ダイヤフィロソフィ〟をまとめました。〝京セラフィロソフィ〟から言葉をいただき、「常に謙虚であらねばならない」「私心のない判断を行う」「もうダメだというときが仕事のはじまり」といった項目ごとに、当社の経営指針を成文化したものです。幹部を含め従業員が集まってくれて、合宿をしながら苦労してまとめていきました。
 現在は、このフィロソフィをはじめ各種方針、社是などで当社が掲げる言葉を毎日ひとつ選んで、部門や役職は関係なく4~5人1組で毎朝10分間、その言葉について思い描くことを話し合っています。例えば「信用第一」がテーマとすると、自分が信用を得ようとするならどういう行動をとるか、社内で一番信用できる人は誰か、なぜその人は信用されるのか、そもそも信用とはどういうものか等を話し合い、共通認識を深めるという取り組みです。3年程続けていますが、毎月メンバーが入れ替わるので、コミュニケーションの促進、考え方の共有などにつながっています。

今後どのような会社、どのような代表を目指されるのでしょうか。

 従業員が笑顔で「この会社で働きたい」と思ってくれる会社にしていくこと、従業員の満足度を上げることが一番と考えています。得てしてオーナー企業の代表というのは自分の思い通りに動かしたくなるんです。私も以前はそうでした。しかし今は、周りを動きやすくするためのリーダーシップ、「サーヴァント型」と言えばいいでしょうか、私はそれを目指しています。そして、人のアドバイスに耳を傾けた上でよく吟味し決断を下す経営者でありたいと思います。
 筋肉、関節、骨など、運動器のトラブルで悩んでいる人が世界中にいます。そういう方を笑顔にできる、物理的なサポートはもちろん心のサポートができる製品づくり、「ダイヤ工業ならでは」と言われる事業を推進していきたいですね。

松尾 浩紀(まつお・ひろき)
昭和56年生まれ。東洋大学経営学部卒業。IT 関連企業を経て、平成18年ダイヤ工業㈱入社、平成29年にオーストラリアBOND 大学大学院経営学修士課程修了(MBA 取得)、平成30年に代表取締役就任。「従業員の成長は、会社の成長」の考えのもと人材育成にも力を入れる



本 社  岡山市南区古新田1125
事業内容 医療用品メーカー
代表者  代表取締役 松尾 浩紀
設 立  昭和38年4月
資本金  1,000万円

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