平成元年に入社して、どんな業務に就かれたのですか。
私が入社した当時は「POP GALLERY」というカタログ事業が会社の屋台骨を支えていました。スーパーや食品メーカーなどにカタログを常備していただき、のぼり旗等POPツールや装飾品、記念品など販促品の注文をいただく、創業以来の事業です。少量で即納できることから、特に中小の小売業の方々から好評をいただいてきました。
私はデザイナーとして入社したのですが、当時はデザイナーがカタログのデザインを起こした後、レイアウトや色数、印刷部数などの段取りを印刷業者と調整し、顧客の窓口である営業と連絡を取っていました。実のところ、デザインからカタログ発行までの一連の業務を俯瞰的に管理できる者がいなかったんです。
そこで、顧客の要望をデザインにもっと取り入れることでサービスが向上するのではと感じていて、当時の浅野社長(現会長)に相談したところ、じゃあお前がやってみないか、となったんです。20代後半までこの業務を担当しました。
カタログ事業は売上の約8割を占めるぐらい重要な事業ですので多忙を極めましたが、ありがたいことに同僚や部下、上司にも恵まれ、対外的にも良い人間関係を築くことができました。
その後は、東京支店長として営業を学ばせてもらいました。おかげでデザイン、仕入、営業と、基本となる全ての業務を経験し、大きな流れがわかるようになったことは大きな財産だと思っています。
定番から季節限定まで、販促に欠かせないラインナップを取り揃える。創業から同社を支える販促カタログ「POPGALLERY」
次期社長にというお話があった時はどんなお気持ちでしたか。
前任の髙尾が社長をしていた令和元年からは、消費税の引き上げ、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言と、経営の舵取りが本当に難しい時期だったと思います。
特にコロナの感染拡大を防ぐために営業活動が大きく制限され、対面営業を得意とするわが社にとっては大変な痛手でした。そして何より、私どもは集客をするための販促ツールを顧客にお届けしているにもかかわらず、「人が集まってはいけない」という状況があることに、大変なジレンマを感じてもいました。
4期連続の赤字に陥り現場の士気も下がっていましたが、社長にという命を私が受けた時は新型コロナが5類感染症に移行していましたので、これから黒字にして会社を存続させなきゃいけない、という使命感でいっぱいでした。
経営者としてどのようなことを目指したのでしょうか。
弊社で考えた造語ですが、浅野会長が社長時代に言っていた「全社営業」を改めて、「全者営業」としてスローガンに掲げました。営業担当者が商談件数を増やすために全社員がバックアップ体制を取る、つまり全社員で営業にかかわるということです。
営業担当者には、これまで以上にお客様のところを回れと指示しました。それだけでは負担が大きいので、営業が抱えている事務的な業務については内勤の部署でその多くを引き取る体制としました。
新たな顧客獲得を命題に、営業担当者はJAや自動車関係のディーラーや部品メーカーなど、これまであまり回っていなかった業種にも積極的にアプローチしていきました。
もちろん、後方支援をする部署からは仕事が増えるといった不満があることは承知していました。けれども、これは社長として譲れない方針でしたので、ゼロベースで新たな仕組み、効率的な方法を考え業務の軽量化を図ってもらいました。
各拠点を回った際には、その都度5~6人と昼食をともにし、社員の声を聞き私の考えも説明することを社長就任時から続けています。スローガンに掲げている「全者営業」はすべての社員が協調・協力して初めてできる活動ですから。
社長が全国の支店を訪れ、社員と食事会を行う。意見交換を通じて絆を深め、同社のさらなる成長を目指す有意義な時間に
黒字化のためにどんな取り組みがあったのでしょうか。
売り上げを伸ばすには営業のレベルアップは不可欠です。ただ、それを個人に任せるのではなく、組織として各人のスキル向上に取り組みました。特に、顧客ニーズを捉えるためのヒアリング能力の研鑽や、企業ごとのアプローチ方法などの資料を作ったロールプレイに努めてきました。
その成果が表れたのは、セールスプロモーションを提供する事業です。商品の購買を条件にハガキやスマートフォンなどで応募し景品が当たるという「クローズドキャンペーン」の企画商品が伸び、主要サービスに成長しました。
こうした提案のためには顧客の催事ごとにオーダーメイドな資料を作らなければなりません。ヒアリングの能力も大きく問われる場面です。徹底して提案型営業のスキルを伸ばし、攻めの営業を強化してきた結果だと思います。
社長になってこの一年、どんなことを念頭に経営に携わってきましたか。
髙尾前社長とは二人三脚でやってきて、その苦労を身近で見て学ばせてもらいました。だから今があると思っています。
そして、常々考えている「バランス」という概念を意識して経営判断をしてきました。この世の中、0対100もなければ、100対0もありません。その間のどこかに答えがあると考えています。物事を決めつけることなく、考えが偏ることなく、物事に濃淡や優先順位をつけて、この一年経営の舵取りをしてきました。未来の活動と足元の活動。極端に生々しく言えば、明日への投資と今日の売上。両方とも大事なことは百も承知ですが、その判断・バランスに自問し続けた一年でした。
私は今、社長という立場にいます。ただそれは単なる役割であって、社長だから社員より人として優れているという論理にはなりません。私の過去の成功体験が今の人、今の状況に当てはまるなどと軽々に考えるのではなく、バランスを意識して物事を判断するようにしています。
そしてもう一つが「挨拶」です。良いコミュニケーションを図るには、相手の存在を認めることが重要で、その第一歩が挨拶だと思っています。業務を円滑に進めるためにもまず挨拶をしようと呼びかけてきました。子どもに言って聞かせることのようですが、これこそが、わが社の「全者営業」を成り立たせる基礎となっているのです。
これからもボトムアップで社員の意見を拾い上げ、役員間でよく話し合いながら確実に黒字を出し、社員がやりがいを持って働き続けられる会社にしていくことが、社長の役割をいただいた私の責務だと思っています。
岡本 悟征(おかもと・のりゆき)
昭和46年生まれ。岡山県立岡山工業高等学校卒業。平成元年㈱アルファ入社、令和5年11月代表取締役社長就任。「全者営業」をスローガンに掲げ、全社員一丸となり難局を乗り切る
本 社 岡山市中区桑野709-6
事業内容 販売促進用品の企画・製作・販売
ならびに情報の企画・編集・販売
代表者 岡本 悟征 代表取締役社長
設 立 昭和59年1月
資本金 1億円