第11回 ㈱天満屋 代表取締役社長 斎藤 和好 氏

トップの羅針盤2025年6月号

 大きな経験値を得たのは2000年ごろ販売促進部で顧客政策を担当した時でした。それまでのマスマーケティングから、一人ひとりのお客様との関係性を重要視し、お客様に生涯を通じてより多くご利用していただこうというONE to ONEマーケティングへと変化する過渡期にあたります。
 実は私が百貨店を就職先として志望したのは、お客様との間で人と人の関係性を結べることに魅力を感じたからで、当時のこの新しい考え方に強く共感できたんです。
 具体的には、ポイントカードなどを活用してお客様のデータを蓄積し、それを元にアプローチの仕方やイベント計画・販売計画などを立案する手法などが挙げられます。
 しかしながら、当時は売り場の販売員の記憶と手元の台帳でお客様情報を管理していて、その方法が正確で意味があると思われていましたから、始めは思うような反応は得られませんでした。カードの中にある顧客データがすぐに売り上げにつながるわけではなく、全国の百貨店でも、先進事例でしたので無理もありません。
 これはもう、店長から現場のスタッフにいたるまで、直接伝えて納得してもらうしかないと、全従業員を対象に勉強会を開きました。1回に20人、1日に3回、それをほぼ一ヶ月近くやり続けて1,000人近くとやり取りしたと思います。
 分析したデータ情報を見せて伝えていくうちに、徐々に「いいね」「一緒にやってみようか」「こんな方法はどうか」など逆にアイディアももらい、売上に成果が出始めると「次は何をしましょう」という具合に、少しずつ皆の気持ちが一つになり、歯車が回りはじめたのを感じました。相手に寄り添い話を聞くことが一番、という思いは、その時に培われたと思います。

自治体や企業と連携して地域課題の解決に取り組む(写真は和気町での職員を対象とした接遇マナー等の研修の様子)

 社長直轄のCS向上推進担当を設け、顧客満足度を上げるための観点から社員教育に力を入れてきました。
 業務に活かせる資格取得を支援していますが、特にギフトコンサルタントという社内資格は、3年計画で全員に取得してもらいたいと考えています。勤務時間中でも動画コンテンツを見て学ぶことができるe‒ラーニングにも力を入れています。
 また、サービスレベルを上げるための社内セミナーも去年から始めています。お客様に対しての声かけ、アプローチの仕方がよくわからないとか、ニーズの引き出しがうまくいかないという声に応えたものです。これは社員だけでなく、売り場の各お取引先の販売員も参加できるようにして、テーマを変えながら月2回程度開いています。
 特に今年は「教育元年」と銘打ち、人としての魅力を高めることを念頭に、今一度、百貨店としての強みを磨いていきたいと考えています。ネットショッピングが身近になり今後も発達、さらに普及していく中で、振り子のようにリアル店舗の「ここでしか買えない」「ここでしかできない体験」が重視されます。そこで重要なのは、販売技術や商品知識だけではなく「人の魅力」だと考えます。モノより時間や機会が重視される今、社員一人ひとりが人間性を高めることが何よりも重要。それがCS向上にもつながると考えています。今日の売り上げより、明日の社員の成長を重視していかなければと思っています。

 社長としてやるべきことは方向性を示すこと、そして判断することの2つだと思っています。やるべきことを自分の中で整理して見える化し、社内報をはじめ文字にしたものを事あるごとに社員に見てもらったり、あるいは喋る機会があれば、同じことを毎回繰り返し話したりして、目指す方向性を示すことが重要です。
 また、物事の判断をする際には、ミーシー(MECE※)であるかどうかを意識して、漏れなくダブりなく、あらゆる選択肢を揃えた上で、リミットギリギリまで考え最終的にその中で本当にいいものを選択するようにしています。トップとして責任を果たすために安易な判断や妥協はできませんからね。

受託運営している東京のアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」では、地元の特産品について情報発信している

 人口減少によって、特に地方の活力が低下することを懸念しています。そうした中でもなんとか地方の良さを残していきたいと思っています。
 当社では現在、岡山県内を中心に15の自治体と包括連携協定を結び、一緒に地域課題の解決に取り組み始めています。自治体職員の皆さんの接遇研修などをさせていただいているほか、近年は当社からも人を派遣して、町の賑わい、観光、人口減少対策などについて膝を突き合わせてディスカッションし、将来の地域の活力創出につながる種まきをしているところです。
 我々のグループ38社とも協力して地域が抱える課題解決に取り組んでいきたいと思いますが、地方で頑張られている様々な企業様との連携によっても、我々が持っていない新たな知見を得ることができます。行政、企業など多様な団体と一緒になって取り組むことで、地域に元気が出るようなビジネスモデルをつくりたいですね。
 地方の百貨店として地域のインフラ、プラットフォームになりたいと思っていますが、そういう立ち位置をもう1回きちんと整理して、新しい形の地方百貨店づくりに挑戦したいと思っています。

 私自身は、現場の人から話を聞くことが好きなので、時間があれば現場を歩いて、フランクにいろんな意見に耳を傾けるようにしています。そこからヒントをもらえることも多いんですよ。
 社長として一番重要なのは、社員からどれだけ信頼を得られるか、そしてどれだけ気持ちを一つにできるかです。全員が同じ気持ちでお客様のために動くことが、その組織の強さにつながると思っているので、そういう百貨店にしていきたいですね。
 また、社員一人ひとりが自分のやりたいこと、やるべきことが100%できるような環境を整えていきたいと思っています。今の新入社員も「岡山をもっと元気にしたい」「岡山のために何かしたい」とみんな志が高くて頼もしいです。そうした想いにも応えてあげたいですね。「天満屋で仕事をすると、自分も成長できる」と感じてもらえる会社でありたいと思っています。

斎藤 和好(さいとう・かずよし)
昭和42年生まれ。東京大学法学部卒業。平成2年㈱天満屋入社。平成26年執行役員に就任。令和2年取締役福山店店長兼百貨店事業副本部長。令和4年取締役岡山本店店長。令和4年代表取締役社長に就任

本 社   岡山市北区表町2丁目1番1号
事業内容  百貨店事業、クレジット事業、スポーツ施設運営事業、レンタカー事業、旅行事業、警備事業、運輸事業、印刷事業、人材サービス事業、ICT事業、建設・不動産事業
創 業  文政12年(1829年)
資本金  100百万円

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