2025年8月号

平成13年、社長に就任されましたが、どんな取り組みが印象に残っていますか?
一つは、店づくりの考え方を変えたことですね。それまで当社では、様々な分析ツールを使って小グループで製品やサービスの品質管理の改善に取り組む「QCサークル活動」に力を入れていました。しかしながら、原因と結果の関係がはっきりしている製造業と違って、私たちのような販売会社では人と人の繋がりで仕事が成り立っていて、いくら分析や管理をしても現場ではその通りにいかない場面も多く見られました。そこで、QCサークル活動を止めて、現場社員の声や感覚をより尊重し取り入れていくことにしました。その後、より良い店にしていこうという社員の前向きな気持ちが次第に育ってくることを実感できたのは嬉しかったですね。
もう一つは、評価制度を大きく変えたことです。当時は、営業社員のやる気を引き出すためのインセンティブとして、販売台数に応じて個人に報酬を支払うことが、当社を含めてどの販売会社でも当たり前でした。訪問販売では個々の営業社員がいかに顧客へ対応するかが重要でしたから。ただ、時代の主流は訪問販売から店舗販売へと変わろうとしていました。店舗販売であれば、営業社員はもちろん、ショールームのスタッフ、エンジニアも含めてチームで成果を出していくことが必要です。個の力よりもチームの力を評価し強化することが会社にとって長期的に見て重要だと考えました。
実は制度を変えたことで、業績はいったん大きく落ち込んでしまったのですが、だからといって元に戻すことは少しも考えませんでした。社員が理解してくれてチームで頑張ってくれたおかげでお客様への対応力が上がり、徐々に業績を回復させることができたことは幸いでした。
社長としてのよりどころとしているのはどんなご経験ですか?
振り返れば30代から40代前半ぐらいの頃に、社外の活動でいろんなことを学ばせてもらいました。岡山青年会議所や岡山商工会議所青年部では様々な地域活動に取り組む中で、逆に自社の社会における意義が見えてくることもありました。青年会議所の先輩から誘われた岡山県中小企業家同友会では、経営者の方々の体験を伺い、ものの見方の違いを認めて多様な意見に素直に耳を傾けることの大切さを知りました。また、仮に望まない結果があったとしても、全ての責任はその選択をした自分自身にあるとすることなど、人としての重要な学びを得ることができました。
社員教育についてはどのようにお考えですか?
今はどんな物でもどんな情報でもネットで手に入る時代です。となると、販売会社としては、社員の人間としての価値をお客様にわかっていただいて、そこにお金を払っていただけるようになることが一番なのかなと思います。そんな魅力的な社員になってもらうには、まず視野を大きく広げていくことが必要で、私自身が多くの気づきを得たように、社員にも〝他流試合〟をしてもらいたいと考えました。
入社年数の浅い若手社員にも、店長クラスにも、他社の経営者や社員の皆さんが参加する勉強会に積極的に参加してもらっています。グループディスカッションなどをする中で、働く意義や物事の見方、目標や目的の重要性などを学んでもらっています。自社の中だけだと気づかなかったことも、他社の方からのご指摘で気づき、納得することもあるようです。
また、月に一度は店を閉めて、店舗ごとに全員ミーティングをしています。店をどうするか方向性を自分たちで考えてもらっていますが、場合によっては地域の課題を見つけて解決方法を探ったりすることもあります。社外に視野を広げていくという意識が定着してきた一つの現れだと思います。
地域と関わるということではどのような取り組みをしてこられましたか?
地域の情報を発信していこうと25年前からコミュニケーションマガジンを年に4回発刊しています。最初は企画会社に頼っていた部分も大きかったのですが、だんだんと社員が自分たちでコンテンツを企画したいと言い出すようになって取材にも行くようになっています。社員一人ひとりが地域に役立つことを考えて行動するように変わってきました。
それから、地域の魅力を発信しお客様に楽しんでもらう「ワンダフルスマイル」というイベントを、平成29年から全社を挙げて開催しています。ほかにもマルシェを開催したり、高校生が開発した新商品を店舗で販売したり、地域の防災イベントに参加したり、こうした地域と関わる事業がここ10年ぐらいでずいぶん増えています。
また、海外へのポリオワクチンの寄付につながる「古着deワクチン」や、読み終えた本や聴かなくなった音楽CDなどを回収する「こどもの未来古本募金」に協力させていただいています。
これらは会社として利益が出るようなことではもちろんないのですが、地域が元気になるお手伝いができればと思っています。

「笑顔が創る輝く未来を」をキャッチフレーズに、平成29年から「ワンダフルスマイル岡山トヨタ」を毎年開催。お客様・地域と共に創る参加型イベントとして定着している
将来に向けて、様々な種まきもされていますね。
今年6月には、公共交通の衰退と高齢化が進みつつある中山間地域で移動手段の確保と福祉サービスの充実を一体的に進めようと、行政や大学、NPO法人などと包括連携協定を結びました。多様な団体が協働して、外出しやすい環境づくりや介護予防などの課題解決に取り組むものですが、地域の方々にもご協力をいただき、10月から新見市で実証実験を行うことになりました。これが先進事例となって全国に広がっていけばいいなと思っています。
私どもは、車を通じてお客様に価値を提供し、深いお付き合いをさせていただいています。ただ、地域の方々と一緒に取り組むことで、より大きな価値を社会に創り出していくこともできると信じています。いい地域があってこそ一人ひとりのより良い暮らしがあり、企業の発展もそこにあると思いますから。
私一人では何もできませんが、一緒になって考え動いてくれている社員には本当に感謝しています。当社がビジョンに掲げている「共創の環」を、さらに大きく広げていきたいと考えています。

地域の注目スポット、店舗、人物など多彩な情報を発信しているコミュニケーションマガジン。岡山トヨタ各店舗で配布している

梶谷 俊介(かじたに・しゅんすけ)
昭和32年生まれ。大阪大学工学部環境工学科卒業。
昭和62年岡山トヨタ自動車㈱入社。平成元年、同取締役。平成13年、同代表取締役社長に就任。令和元年、岡山トヨタホールディングス㈱代表取締役社長に就任。平成10年から岡山県レンタリース協会(現:(一社)岡山県レンタカー協会)会長。平成24年から(一社)岡山県自動車整備振興会会長。岡山県教育委員会委員、岡山県産業教育振興会会長など公職多数
本 社 岡山市北区大供3-2-12
事業内容 自動車販売(新車・中古車)、車検・点検・整備、自動車買い取り、自動車保険・損害・生命保険代理店
創 業 昭和20年(1945年)
資本金 1,000万円
