トップの羅針盤 第19回 ㈱マティクスホールディングス 代表取締役社長 松本 直樹 氏

トップの羅針盤2026年4月号

家業を継ぐことを意識したのはいつ頃からですか?

 明治36年の創業当時、当社は奉還町商店街で食用油や雑貨などを扱う商店でした。昭和25年に松本油業㈱を設立してガソリンスタンド業界に参入し、高度経済成長とその後のモータリゼーションの波に乗り、店舗を増やしていきました。幼い頃に「油屋さん」と呼ばれていたことを、おぼろげながら覚えています。
 家業を継ぐことを意識したのは大学に入ってからで、卒業後は石油メーカーに入社し業界のことを勉強させてもらっていたのですが、入社して1年半ぐらいの平成7年に、父が58歳という若さで急逝してしまいました。
 そのため、専務をしていた叔父とともに急遽会社を引き継ぐことになり、叔父が社長に就任し、私はガソリンスタンドの現場からスタートしました。

どんなご苦労があったのでしょうか?

 ちょうど父が亡くなった頃から、業界の規制緩和が一気に進みました。特定石油製品輸入暫定措置法の廃止によって、それまで再販売価格維持の傾向があったマージンが自由化され、業界全体の利益率が非常に低くなり、経営が苦境に立たされました。その一方で、平成10年にセルフスタンドが解禁され、私はこれを千載一遇のチャンスと捉えました。
 「安全性は保てるのか」「サービス低下でお客様が離れるのでは」と、社内から異論は出ましたが、ここが勝負だと思い、解禁されてすぐセルフ1号店をオープンさせました。高級洗車やボディコーティング、車検などの機能も備えた、約千坪の大型店です。独立系でセルフ方式を導入しているスタンドは既にありましたが、当社のような大手石油メーカー系列のスタンドとしては、全国的にも先駆けだったと思います。
 その後、新店舗のオープンや既存店舗のセルフ化を積極的に推進したところ、販売量が飛躍的に伸びました。ボリュームを増やすことでマージンの低下をカバーし、強い経営体質を実現することができました。
 私の業界経験が浅かったことが、かえって積極的な改革を推し進めることができた要因だったと思います。

平成20年の社長就任から約10年後、ホールディングス化に踏み切ったのはなぜですか?

 大きなきっかけとしては車のEV化の進展がありました。当社の利益はガソリン燃料等が約3分の2を占めていましたので、EV化が当社の事業を持続困難にしてしまうのではないか、との懸念が高まっていました。
 また、団塊世代が高齢化して車から離れていけば需要が急減することも考えられます。雇用を守っていくためにも、ガソリンスタンド以外の新たな事業に力を入れて収益構造を変えよう、そんなふうに考え組織改編に踏み切りました。
 新規事業の立ち上げや他社へのM&Aを実施する場合、また逆に痛手を小さくするために不採算事業を切り離す場合など、機動的に選択肢を持てるようにするためには、ホールディングス化が有利に働くと考えたのです。

特命委員会というユニークな取り組みをしていますね。

 もともと当社は少人数の複数店舗を運営していますのでコミュニケーションが取りづらく、さらに分社化によって情報共有が難しくなるという危惧がありました。そこで横のつながりを促進していくため、それぞれの会社から人材を出してもらい、4つの特命委員会を立ち上げることにしました。
 その一つが就活チームです。若手の退職者が出るたびに、現場からは「もっとしっかりした人材を採用して」と、採用を担当していた総務部への不満が出ていたことから、現場の社員にも採用の苦労を知り、新人を育てようという意識も持ってもらいたくて編成したものだったのですが、これが思わぬ成果を挙げることになりました。
 就活イベントなどにチームが主体となって対応するようになった令和5年以降、毎年3~7名の新卒者を安定して採用できるようになり、定着率も上がってきました。採用活動の企画段階から彼らが主体的に活動することで、より学生に響く、あるいは現場の実情に即した採用活動ができるようになったと考えられます。
 このほかにも、社内の環境整備、ブランディング、人材育成をテーマとする特命委員会が、職場を良くするために今のマティクスには何が必要かを考え、会社に提言し、承認されたことは会社の決定として実行に移していっています。
 社員が考えて動いてくれる、そんなボトムアップの組織の方が、これからは強くなっていくだろうと思っています。

他にも新たな取り組みはありますか?

 社内用の情報共有アプリを導入し、方針説明、制度説明、社内申請、営業報告や社内報といった、各社・各部署・各事業所の情報を共通して得られるようにしました。
 また、これも特命委員会からの提案でしたが、店舗や事業所の周りを清掃し地域の人たちに挨拶をするという「マティクスクリーンWeek」を毎月初めに実施しており、この様子もアプリを使って報告できるようになっています。
 アプリは社員の誕生日などのハッピーニュースや、仕事を手助けしてもらったときなどに「ありがとう」の気持ちを伝えるサンクスカードなど、社員のトピックスも共有できるようにしています。グループ内の垣根を低くし、情報共有や意思の疎通に一役買ってくれています。

特命委員会メンバーの発案で、毎月初めに実施している「マティクスクリーンWeek」では、全事業所・全社員が「清掃活動」と「あいさつ運動」に取り組む

今後、この会社をどのようにまとめていこうと考えていますか?

 ピーク時からガソリンスタンドの数は半分ぐらいになっていますし、これからも淘汰は進むと思っています。人口減少やEVの普及、ガソリン価格の問題など環境は厳しくなる一方ですが、移動手段としての車の役割はなくなりません。
 これまではホールディングス傘下の3社と関連会社が個々でビジネスを展開してきましたが、ガソリンを入れに来てくれたお客様に対して、車検や保険、ガスなど、当社の様々なサービスをワンストップで提供する仕組みができれば、顧客数は減っても、トータルで当社にとっての利益を向上させることができると期待しています。
 「地域の暮らしと移動を支える会社・人になりたい!」の旗印の下、将来の不確実性に対するリスクヘッジを図りつつ、事業間の垣根を超えたシナジーを追求し、社員と一丸となって厳しい時代に果敢に挑戦していきたいと思っています。

サービスショップでの給油を中心に、車検・メンテナンス・洗車サービス以外にも、自動車保険や車販売・車買取・レンタカーなど、地域のお客様のカーライフをトータルにサポート

松本 直樹(まつもと・なおき)
昭和45年生まれ。東海大学政治経済学部卒業。平成6年、㈱マティクス入社。平成9年、同社取締役就任。平成11年、同社常務取締役就任。平成15年、同社専務取締役就任。平成20年1月、同社代表取締役社長就任、現在に至る。ビジョンを社内に浸透させることが最も大事なことと考え、グループ会社間の連携や次世代の育成にも力を注ぐ

本 社  岡山市北区平野567-1
事業内容 石油製品販売、自動車軽整備、自動車部品・用品販売、中古車販売、レンタカー事業、総合商品卸小売、損害保険・生命保険代理店業務
創 業  明治36年
資本金  4,000万円

一覧へ戻る
TOP
Translate »